20年間に渡って下落し続けるトルコリラ円を買うことに躊躇する投資家の方は多いと思います。
この記事では、その主な原因の一つであるエルドアン大統領の政策と、それがトルコ経済にどのような影響を与えたのかについて、解説していきます。

レジェップ・タイイップ・エルドアン <引用:日本経済新聞>
異端の経済政策「金利を下げればインフレは収まる」
エルドアン大統領の経済政策の中心にあった「金利を下げればインフレは収まる」という考え方は、従来の経済学とは真逆の発想です。
一般的に、インフレ抑制のためには金利を上げるのが常識とされています。この異端とも言える政策が、トルコ経済にどのような影響を与えたのでしょうか。

常識はずれの政策が市場関係者の嫌気を買うことに
エルドアン大統領の主張は以下の3点に集約されます。
①高金利は生産コストを上げ、物価上昇を招く
②低金利は投資を促進し、生産性向上につながる
③生産性向上が物価を安定させる
この理論に基づいて実施された低金利政策の結果、トルコのインフレ率は2022年10月に85.5%まで上昇し、リラの価値は大きく下落しました。以下の表は、トルコリラ円レートの推移を示しています。


時期 | トルコリラ/円レート | 変動率 |
---|---|---|
2018年 | 約23円 | – |
2019年 | 約19円 | -16% |
2020年 | 約15円 | -35% |
2021年 | 約13円 | -15% |
2022年 | 約8円 | -65% |
2023年 | 約6円 | -24% |
2024年 | 約4.4円 | -81% |
この表からわかるように、わずか7年間でトルコリラの価値は約81%も下落しています。これは、エルドアン大統領の異端的な経済政策が市場の信頼を大きく損ねた結果と言えるでしょう。



ハイパーインフレの原因を作り、通貨の価値を大きく下げた。。
中央銀行人事への介入と独立性の喪失
エルドアン大統領は、自身の経済政策に反対する中央銀行総裁を次々と解任し、自身の考えに同調する人物を任命しました。
これにより、トルコ中央銀行の独立性が大きく損なわれました。中央銀行の独立性は、通貨の信頼性を維持する上でとても重要な要素です。



総裁人事への介入は国際社会から多くの批判を受けた。。
以下は、エルドアン大統領の任期中に行われた中央銀行総裁の交代の履歴です。
①2018年7月:メフメト・シムシェク氏
②2019年7月:ムラト・ウイサル氏
③2020年11月:ナーチ・アーバル氏
④2021年3月:シャハプ・カヴジュオール氏
⑤2023年6月:ハフィゼ・ガイェ・エルカン氏
このように、わずか5年間で5人もの中央銀行総裁が交代しています。
これは異例の事態であり、市場参加者にトルコの金融政策の一貫性と予測可能性に対する不安を抱かせる結果となりました。この頻繁な人事交代により、市場の信頼は大きく損なわれ、トルコリラの下落に拍車をかけることとなりました。
投資家は予測不可能な政策変更を恐れ、トルコリラ建ての資産から資金を引き上げる動きを加速させたのです。
この結果、2022年11月にIMF(国際通貨基金)がトルコに対して「中央銀行の独立性強化」と「早期利上げ」の2つの勧告を行いました。
その後、2023年になって大統領に再選した後から政策の路線変更を行い、新しい総裁と中央銀行の独立性を約束し、金利も大幅に上げることになりました。



暴君が落ち着いたことでトルコリラ円の下落も緩やかに
強力な権力への国際社会からの批判
エルドアン大統領の強権的な政治手法は、国際社会からの批判を招き、トルコへの投資が遠のく結果となりました。特に以下の点が問題視されています。
エルドアン大統領の問題行動
①メディアの統制:政府に批判的なメディアへの弾圧や閉鎖
②司法の独立性の侵害:裁判官の恣意的な任命や解任
③政敵の弾圧:反対派政治家や活動家の逮捕や拘束
これらの問題により、トルコの民主主義と法の支配に対する国際社会の信頼が低下し、トルコへの外国投資が減少しました。その結果、経済成長に悪影響を及ぼすこととなりました。



政治リスクも通貨下落の大きな原因に
以下の表は、トルコへの外国直接投資の推移を示しています。
トルコへの外国直接投資額 | |
---|---|
2015年 | 190 億ドル |
2018年 | 130 億ドル |
2020年 | 79 億ドル |
2022年 | 65 億ドル |
2024年 | 55 億ドル |
出典: World Bank – Foreign direct investment, net inflows (BoP, current US$) – Turkey
この表から、2015年以降、トルコへの外国直接投資が大幅に減少していることがわかります。これは、エルドアン大統領の政策と政治手法に対する国際社会の不信感の表れと言えるでしょう。
国際社会はエルドアンが大統領である限り政治リスクは付きまとうと考えており、トルコ経済の成長期待は低く、通貨価値もまだ下がり続けると判断する人たちも少なくないようです。
まとめ
エルドアン大統領の独特な経済政策と強権的な政治手法は、トルコリラ円の長期下落の主要因となりました。
異端的な低金利政策、中央銀行の独立性の喪失、そして国際社会からの批判と投資減少が、トルコ経済と通貨価値に大きな打撃を与えました。
私としては、2023年の再選以降は金利政策も正しく実行され、総裁の独立性も保たれており、2028年の任期まで堅実な政策が続くと思っています。ただ、国際社会ではまだまだエルドアン大統領への警戒心は解けていないようです。